虫歯治療と拡大視野について
虫歯治療で修復治療が必要になる際、大切なポイントが二つあります。
一つは、細菌に感染して回復(再石灰化)が見込めないエナメル質や象牙質など、いわゆる「感染歯質」(虫歯)を確実に除去する事。二つ目のポイントは除去後の形態を正確に回復すること、つまり歯の修復です。
虫歯治療の長期的に良好な結果(予後)の条件の一つに、適切な感染歯質の除去と除去部位に対しての緊密な封鎖が必要とされています。
現在、これらのチェックは主に歯科医師の『目』によって行われているのが現状です。
この歯科医師の『目』に大きな手助けをしてくれるのが拡大鏡(ルーペ)あるいはマイクロスコープ(歯科用顕微鏡)です。
拡大鏡(ルーペ)、あるいはマイクロスコープを使用することで、大きく拡大した視野の元、
感染部位の判別、感染部位の除去、あるいは修復物の適合のチェックを行うことができます。
強拡大
拡大視野下での虫歯治療における科学的根拠
マイクロスコープを使用した根管治療の中で、外科的にアプローチした治療はマイクロスコープなしの治療と比較して治療成績が良いことを示す論文があり 、根管治療においてはマイクロスコープの有用性は高いとされています。
それに対して、虫歯治療において拡大鏡(ルーペ)やマイクロスコープを使用する拡大視野下での治療の結果と裸眼での治療の結果とを比較した論文は存在するのでしょうか?論文検索をしたところ、残念ながら明確なエビデンスがある状況とは言えませんでした。
拡大視野下と裸眼での虫歯に対する診察と診断の正確さに差があるか?を調べた論文では、拡大視野下と裸眼での診察と診断の正確さには差が出ないということを示しています 。
つまり、拡大鏡(ルーペ)やマイクロスコープの使用と裸眼とでは、虫歯の発見には大差がないということです。
そして、拡大視野下と裸眼の虫歯治療の結果の違いを示す高いエビデンスレベルの論文は存在しませんでした。
つまり拡大視野下で虫歯治療すれば、良い結果が得られる可能性が高まるとは明確に示されていないのが現状です。
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虫歯治療における拡大視野に必要か?
拡大鏡(ルーペ)、マイクロスコープを使用していれば必ず正しい診察と診断そして適切な治療が行われ、良好な治療結果が出せるわけではなく、裸眼でも良好な治療結果を出せるというのが現状と言えます。
虫歯治療における拡大鏡(ルーペ)とマイクロスコープの評価としては、質の高い歯科治療をより容易にさせてくれる道具に過ぎないとみるのが、現状では公平な見方ではないかと思います。
著者自身はほぼ全ての治療工程において、拡大鏡(ルーペ)あるいは、マイクロスコープを使用していますが、使い続けるのにはいくつかの理由があります。
まずは歯科医師にとっての快適さです。
一度、拡大鏡(ルーペ)、マイクロスコープでの治療になれてしまうと、質の高い治療を1日持続させるのに、裸眼では集中力を持続させるのが難しく感じてきます。
裸眼での治療にはどこかミスを見逃したままで治療が完了してしまう可能性へのストレスがあると感じ、ルーぺ、マイクロスコープを使用することでそのミスの見逃しが軽減できるのでは、という安心感は何にも代えがたいものです。
また歯の状態だけでなく歯肉縁下の細かい歯石、また虫歯の下に広がる細いヒビ割れの状態などが容易に確認できることなど利点が多くあります。
そしてとくにマイクロスコープへはカメラの装着が可能で、治療の様子を患者さんと共有できるというメリットもあります。これは患者さんにとっての安心感にもつながるのではないでしょうか。
拡大視野は虫歯治療にだけ有効なの?
拡大視野は決して虫歯治療にだけ有効なわけではありません。
親知らずの抜歯時に、拡大鏡(ルーペ)を使用することで、骨と根の境界がより明瞭に視野で捉えることができるのでよりスムーズに、術後の痛みが少なく抜歯を完了させることが可能です。
また歯周組織再生療法やインプラントなどの外科処置時にも骨の状態、根の状態をはっきりと把握したので拡大鏡(ルーペ)+ライトは積極的に使用しています。
歯石の除去などのクリーニングの際にも、拡大して施術することでより確実にプラーク、歯石の除去を行えます。当院では衛生士も積極的に拡大鏡を使うように指導しております。